研究概要 |
近年各種の薬物治療のみならず深部電極刺激(deep brain stimulation, DBS)により、Parkinson病(PD)をはじめとする神経疾患の治療が広く行われるようになってきている。しかし臨床効果を客観的かつ総合的に評価する手法はいまだに確立されていない。本研究では、我々がこれまで開発してきた様々な生理学的手法、とりわけ衝動性眼球運動課題を応用することにより、DBS、および各種薬物治療の効果を客観的かつ総合的に判定する方法を確立することを目標として行った。 PDに対してDBS治療をおこなっている患者において、DBS on時、off時の眼球運動のパラメーターを比較した。またこれまで薬剤治療を受けたことのないPD患者においてL-DOPA製剤投与前後での検討を行った。眼球運動課題としてはvisually guided saccade (VGS)、gap saccade (GAP)、memory guided saccade (MGS)の四つの課題を行ない、その遂行能力(潜時、振幅、速度、課題の正答率など)を比較した。DBSはいずれの眼球運動課題でも眼球運動の振幅を改善させ、さらに一部の課題において潜時を短縮した。課題の正答率についても、一部の課題(MGS)においてsaccade to cueの頻度が減る効果があった。他方、L-DOPA投与は、VGS、GAPなどの反射的な眼球運動の潜時は延長するのに対し、MGSのような随意的眼球運動の潜時は短縮した。課題の正答率は変化しなかった。これらの結果は基底核の働きについて示唆を与えるとともに、治療戦略にも役立つ知見となると思われる。眼球運動を用いたDBSの治療効果判定は臨床的に有用である。
|