我々は、一連の研究過程で、糖尿病性神経障害の新しい治療法開発を目指して神経栄養因子ペプチドの遺伝子を、細胞毒性や自己複製能を持たず非分裂細胞である神経細胞で長期間安定した遺伝子発現が可能なファージベクターの作成を試みた。しかし、当初、ファージの扱いに、大臣承認が必要となったことから、認可を待つまでの間実験が進まない可能性もあり、設計をファージベクターからアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)に変更して、本研究もAAVを用いた方法で申請した。しかし、平成18年度より、ファージベクターの作成が大臣承認の必要がなくなったため、再びファージベクターを用いたマウス糖尿病性神経障害の遺伝子治療(傷害DRGニューロンに対する治療)を試みることとした。これにより、後根神経節(DRG)を標的とするより選択性の高いベクターの作成が期待できる。 EPOおよびNGFなど糖尿病性神経障害に有効とされる成長因子のcDNAをマウスより抽出RNAをRT-PCRすることにより作成した。作成したcDNAはファージベクターに組み込む。ファージベクターはDRGへの遺伝子導入の特異性を作るため、New England Biolabs社製Ph.D.C7C Phage display Peptide Libraryを用いて、DRGに特異的に接着する7桁ペプチドを採取し、この配列をphage vector pIIIサイトに付加した。特異ペプチドは3種類あり、免疫組織学的検討より、それぞれのペプチドが異なる細胞群を標識している可能性があり、それぞれの配列を付加した3種類のベクターを調整した。現在、緑色蛍光色素(GFP)を発現する遺伝子配列をこれらのベクターに組み込み、in vivoにて、遺伝子発現の効率を観察している。この基礎検討の後、EPOならびにNGFを組み込み、その効果を検討する予定である。また、TNFαとRAGEに関しては、他社にて、両遺伝子特異的なノックダウンを可能とする配列の決定を依頼し、それに相補的なステムループタイプの合成オリゴDNAを作成した。これらについても、今後検討する予定である。
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