筋強直性ジストロフィー症の病態に種々のpre-mRNAのスプライシング異常が関与するいわゆる「RNA病」であることが、近年明らかとなってきた。本研究では本症におけるである筋萎縮・変性の分子病態の解明を主眼に、二つの可能性について検討した。すなわち、リアノジン受容体、小胞体カルシウムポンプのスプライシング異常による筋小胞体内のカルシウム動態の異常が、いわゆる「小胞体ストレス」応答機序により、細胞生存障害(すなわち筋変性)をきたしているという可能性、および細胞骨格タンパクのスプライシング異常による機能異常が膜の脆弱性やシグナル伝達障害などを惹起し筋変性に関与しているという可能性である。以下に示すように両者の機序ともに本症の病態に関与する可能性が今年度の研究により得られた。 まず、小胞体ストレスについては、本症骨格筋サンプルを用いた検討から、BiPなどのmRNAの発現増加、またXBP1のスプライシングの増加を認めた。また、小胞体ストレス応答に関与するタンパクの発現も、共同研究者の池添博士により確認された。以上のことより、小胞体ストレス応答機序が本症においても活性されていることを確認した。 いっぽう、細胞骨格タンパクのスプライシングについては、本症骨格筋においてジストロフィンおよびジストロブレビンのスプライシングが異常であることをあらたに見出した。さらに、変異ジストロブレビンタンパクに対するペプチド抗体を作成し、変異タンパクが本症骨格筋において増加していることを明らかにした。さらに、変異タンパクの性質について検討した結果、シントロフィンに対する結合能が変化していることが判明した。シントロフィンはシグナル伝達タンパクの局在に関与することなどが知られており、変異ジストロブレビンタンパクがシグナル伝達障害を示す可能性が想定された。
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