研究概要 |
抗AChR抗体で発症する重症筋無力症は約30年前にLindstromらにより明らかにされている。一方で重症筋無力症の患者の約20%では、抗AChR抗体は検出されず、未知の自己抗体の存在が予想された未解明のままであった。重症筋無力症患者の抗MuSK抗体の正確な定量アッセイシステムを神戸薬科大学、国立病院機構宇多野病院と共同で開発し、それを使って我が国の患者血清を調べたところ、原因不明の重症筋無力症の約30%で抗MuSK抗体が高値で検出されることを報告した(Neurology,2004,2005)。 しかし、抗MuSK自己抗体は患者血清中に存在するが、それが重症筋無力症の発症原因であることを示す確かな証拠を提示することができなかったため、「抗MuSK自己抗体が重症筋無力症の発症原因とは考えられない」、という激しい議論が起きた(Neurology,2004)。2006年に、ようやく抗MuSK抗体により重症筋無力症が発症することを世界ではじめて報告し、この論争に終止符を打った(J.Clin.Invest.,2006)。同時に疾患動物モデル(ウサギ、マウス)を作製できることも報告し、その成果は米国科学雑誌Scienceのハイライト、および国内新聞各紙などで紹介された。一方、抗MuSK抗体陽性重症筋無力症に特徴的な筋麻痺、進行性の筋萎縮、神経筋シナプス接合部の病態については、まだ未解明である。
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