研究概要 |
神経細胞間電気的共役の神経疾患への関与を明かにするため,初年度は遺伝性てんかんモデルであるELマウスの海馬でのGAP junction機能を解析した. ELマウスは生後10週ごろから放り上げ刺激によっててんかん原性獲得を促進するが,初年度は刺激を与えないEL[以下EL(-)]マウスを対象とした.Gap junctionの構成蛋白であるコネキシンの阻害剤であるCarbenoxenolone(100μM)をもちいて,EL(-)マウス海馬に誘導したてんかん脳波の成因にgap junctionがどのようにかかわっているのかを調べた.てんかん脳波の誘導には海馬スライス標本にGABA受容体阻害剤であるビククリン(10μM)を灌流投与(BMIモデル),NMDA受容体を活性化させるMgfree人工脳脊髄液を灌流する(0-Mgモデル),人工脳脊髄液のカリウム濃度をあげる(high-Kモデル、9.25mMK)の3種類をもちいた.EL(-)マウス海馬で誘導されるてんかん波の周波数は,それぞれのモデルにおいて0.7Hz,0.4Hz,0.7Hzであった.Carbenoxenoloneの投与時間は20-30分であった.CarbenoxenoloneはBMIモデルとhigh-Kモデルのてんかん波を完全に抑制し,0-Mgモデルでは周波数は50%に減少した.これら抑制効果は人工脳脊髄液灌流下においても約1時間以上持続した.通常のマウスやラットの海馬をもちいた実験でもCarbenoxenoloneはBMIのてんかん波を完全に抑制するが0-Mgによるてんかん波はafterdischargeのみを抑制することがすでに報告されている.ELマウス海馬をもちいたわれわれの実験結果はこれらの報告と矛盾するものではなく,発作を経験しないELマウス海馬においては,てんかんモデルにおけるGap junctionの役割は正常マウスとなんら変わりないと解釈された.2年目はてんかん発作を複数回経験してんかん原性を獲得したEL(+)マウスについてCarbenoxenoloneの抑制効果ならびにConnexin蛋白発現量を調べ,さらにひとてんかんでの解析を推し進める予定である.
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