研究概要 |
骨格筋および脂肪細胞はインスリン刺激により、細胞内へのグルコース輸送が数倍ないし十数倍活性化される。このような高いインスリン感受性グルコース輸送はこれらの細胞に特徴的に見られるものであるが、この高いインスリン感受性を発現・維持する機構は不明である。一方、ヒト2型糖尿病では骨格筋・脂肪細胞においてインスリン感受性グルコース取り込みの障害(インスリン抵抗性)が存在することが知られており、インスリン感受性を発現・維持する機構の解明は糖尿病に見られるインスリン抵抗性の病態の解明あるいは新たな糖尿病治療薬の開発につながることが期待される。 本研究では,脂肪細胞のインスリン感受性発現における翻訳後修飾機構の関与について検討を行った。その結果,(1)SUMO化縮合酵素Ubc9の発現量が脂肪細胞の分化に伴い増加すること,(2)アデノウイルスベクターを用いてUbc9を過剰発現した脂肪細胞では,GLUT4発現量の増加と,インスリン感受性コンパートメントへのターゲティングの促進がみられ,その結果としてインスリン感受性グルコース輸送が増強されること,(3)逆に,RNA干渉によりUbc9発現を抑制することにより,GLUT4のインスリン感受性コンパートメントへのターゲティングの減少と,GLUT4の分解促進による発現量の低下が生じ,インスリン感受性グルコース輸送の低下が見られること,(4)脂肪細胞においてはGLUT4の細胞内ターゲティングがGLUT4の蛋白寿命に大きく影響すること,等を明らかにした。これらの結果は,Ubc9がGLUT4の細胞内ターゲティングとターンオーバーを介してインスリン感受性発現を調節する重要な機能蛋白であること,また,脂肪細胞のインスリン感受性の発現・維持に,GLUT4の細胞内ターゲティングが大きく影響することを示すものである。
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