多機能サイトカインTGF-βは、粥状動脈硬化病変には抑制的、再狭窄病変に対しては促進的に働くことが示唆されている。しかし、TGF-β下流の各シグナル分子が動脈硬化形成に及ぼす影響は不明のため、我々はTGF-βの主要シグナル分子Smad3のノックアウトマウス(KO)を代表的な粥状動脈硬化モデルマウスであるApoEKOと交配し、TGF-β・Smad3シグナルの動脈硬化における役割と治療応用への可能性について検討している。本年度、ApoE/Smad3ダプルKOについて、10週から25週にかけて経時的に大動脈の病理組織学的解析を行なったところ、ダブルKOではApoEKOに比べ、約8倍と著しい粥腫の増大を認め、その主体はマクロファージの集積であった。Smad3欠損による血管病変増強に寄与する因子としては、骨髄由来マクロファージやリンパ球の機能亢進と血管壁に内在する内皮細胞機能障害が考えられる。このためダブルKOとアポE単独KOマウスとの間で相互に骨髄移植を行ない、Smad3欠損による粥状硬化促進の原因がいずれの細胞の由来するか検討したところ、病変の形成は骨髄由来マクロファージの性質に依存することが示唆された。また、病変部のマクロファージが単球遊走因子MCP-1を高発現していたことから、マウス腹腔内マクロファージを採取して機能解析を実施したところ、Smad3欠損によりTGF-βによるMCP-1抑制作用が失われていることが明らかとなった。また、Smad3欠損マクロファージは、TGF-βによる増殖抑制作用も失われており、TGF-βによるp15の発現増加の消失がその分子基盤の一つであると推察された。このように、内因性Smad3はマウスにおいて高脂血症による粥状動脈硬化病変の形成に抑制的に働くことが示唆され、Smad3あるいはその下流因子としてのp15の増強は新しい動脈硬化抑制手段として期待される。
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