研究概要 |
食後の血管組織で活性化される遺伝子発現を検討する目的で、培養血管平滑筋細胞を用いてインスリンによる遺伝子発現調節機構として転写因子C/EBP-betaおよびdeltaの遺伝子発現を検討した。インスリンは生理的濃度である10nmol/LにおいてC/EBP-βおよびδのmRNAの発現を増加させ、C/EBPの標的遺伝子であるMCP-1遺伝子の発現をmRNAおよび蛋白のレベルで増加させた。このインスリン効果はPl3キナーゼ阻害剤であるLY294002で完全に抑制されたことから、Pl3キナーゼ依存的的効果と考えられた。 一方、インスリン抵抗性動物モデルの検討では、血管壁においてPl3キナーゼの下流分子であるAKTの燐酸化が高インスリン血症を呈する高果糖食ラットにおいて亢進しており、高インスリン血症の程度と血管壁における転写因子C/EBP-βおよびδのmRNA発現が有意な正の相関関係を示した。さらに、血管壁でのC/EBP-βのmRNA発現の程度とMCP-1mRNA発現には極めて良好な正の相関(r=0.90,p<0.001)が認められた。また、クロマチン免疫に沈降法(ChlP assay)にて検討したC/EBP-βのMCP-1遺伝子5'上流域への結合はインスリン抵抗性動物の血管壁において亢進していた。 以上のことから、食後の高インスリン血症は血管平滑筋細胞においてPl3キナーゼを活性化を介して転写因子C/EBPの発現を増加させ、MCP-1をはじめとする炎症関連遺伝子の発現を増加させていることが明らかになった。
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