研究概要 |
膵腺房細胞がin vitroでインスリン分泌細胞へ分化転換できることは、我々がその直接的証拠について既に報告しているる。今年度は、健常動物だけでなく糖尿病状態にある動物の膵腺房細胞も同様の分化転換を生じることができるかについて検討を行った。その結果、ストレプトゾトシンによって膵β細胞を破壊したインスリン依存型糖尿病マウス及び、自然発症1型糖尿病モデルであるKDPラットの膵腺房細胞からもインスリン分泌細胞を誘導することができた。また、このとき、膵発生初期に見られる転写因子の発現誘導が認められ、インスリン以外のホルモン(グルカゴン、ソマトスタチン、膵性ポリペプチド)を発現する細胞も誘導された(Am J Physiol,2007)。さらに、膵臓を消化して腺房細胞を単離する操作を加えることによって、EGF受容体とその下流にある細胞内シグナルが活性化されることを見出した。EGF受容体の活性を抑制するとインスリン分泌細胞への分化転換は抑制されたことから、膵腺房細胞からインスリン分泌細胞への分化転換にはEGFシグナルの活性化が必須であることが判明した。これらの結果は、健常マウス、糖尿病マウスのいずれにおいても全く同様であった。また、細胞内シグナルの一部を遮断することによって、脱分化は生じるが分化転換は完了しない状態を誘導することが可能となった。現在、さらに詳細なメカニズム解析を進めているところである。
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