研究概要 |
本年度は、膵腺房細胞における分化転換メカニズムを明らかにする目的で種々の細胞内シグナル経路阻害薬の影響を検討した。その結果、PI3キナーゼ経路の遮断にことによってインスリン分泌細胞への分化転換が阻害されることを見出した。興味深いことに、このとき、アミラーゼの発現は激減して腺房細胞としての表現型を失うものの、分化途上の膵臓で見られるHNF6,Foxa2,Nkx2.2,Hes1などの転写因子の発現が誘導されており、未分化膵細胞の特性を備えた細胞に脱分化した可能性が高いと考えられた。さらに、膵腺房細胞がインスリン分泌細胞に分化転換するときには細胞間接着が回復してspheroid状の細胞塊を形成するが、脱分化状態にとどまるときにはspheroidを形成しない。これに着目して、細胞間相互作用と分化転換の関係について検討した結果、単離膵腺房細胞のspheroid形成には、E-cadherinとβ-cateninの発現増強及び分解抑制による細胞接着(cadherin-mediated cell-cell adhesion)の回復が必要であり、E-cadherinによる細胞接着をその中和抗体を用いて阻害すると、分化転換が著しく抑制されることを発見した。これは、E-cadherinによる細胞間接着が膵腺房細胞の分化状態を制御していることを示す証拠であり、また同時に、インスリン分泌細胞誘導に細胞間相互作用が重要な役割を演じていることを示す結果でもある。
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