単離した膵腺房細胞をin vitroでEGF存在下に浮遊培養するとspheroidを形成してインスリン分泌細胞へ分化転換することをすでに検証していたが、本年度はそのメカニズムについて細胞内シグナルと細胞間接着に着目して解析を行った。種々の阻害薬を用いた検討から、ホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ(PI3K)阻害薬であるLY294002を添加して培養した場合には、spheroidが形成されず、分化転換も生じないことを見出した。このとき、アミラーゼの発現など、腺房細胞としての機能は喪失しているが、膵臓の発生に重要な転写因子の発現誘導が見られたことから、未分化膵細胞の特性を有する細胞へと脱分化しているものと考えられた。興味深いことに、PI3Kを阻害した条件では、Eカドヘリンとβカテニンの分解が認められ、このことがspheroidが形成されないことの要因であると判明した。さらに、βカテニンシグナルを阻害するICAT(inhibitor of beta-catenin and TCF4)をアデノウイルスを用いて強制発現すると、脱分化誘導の指標の一つであるHNF6の発現が強く抑制される一方、インスリンやグルコキナーゼなど膵β細胞に特徴的な遺伝子の発現が増強される傾向が認められたことから、βカテニンシグナルは単離膵膵腺房細胞の脱分化に作用すると考えられた。すなわち、細胞間接着の破壊と再構成が膵腺房細胞からインスリン分泌細胞への分化転換において、きわめて重要な役割を演じていることが明らかとなった。
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