Wnt/β-cateninシグナルは膵臓でのインスリン分泌、脂肪細胞の分化に関連することが報告されているが、肝臓における役割は未だ明らかになっていない。また、Wnt familyのひとつであるWnt5b遺伝子はSNP解析により2型糖尿病の感受性遺伝子であり、β-cateninシグナルを負に調節することが報告されている。今回、我々はWnt1によって活性化されるWnt/β-cateninシグナルとWnt5b遺伝子の肝臓での役割を検討するため、hepatocyteを用いて実験を行った。まず、Wntシグナルの下流に位置するβ-cateninの経路が活性化するか否かを検討するため塩化リチウムで刺激を行ったところ、GSK-3βのリン酸化が認められ、β-catenin経路の活性化及び、PEPCKやG6Paseといった糖新生に関与する遺伝子の発現低下が認められた。さらに、db/dbマウスを用いて肝臓におけるWnt5bの遺伝子発現を検討したところ、コントロールマウスにくらべ、Wnt5b遺伝子の発現の上昇が認められた。また、マウスにipGTTを行い、肝臓におけるWnt5b遺伝子の発現を検討したが、糖負荷数時間後にWnt5b遺伝子の発現が一過性に増加するこが確認された。このようにWnt5b遺伝子の発現が糖尿病モデル動物の肝臓で発現が増加していることからWnt/β-cateninシグナル及びWnt5b遺伝子は糖尿病の病態生理に何らかの役割があるものと考えられ、マウス肝臓にアデノウイルスベクターを用いて、マウスWnt5b遺伝子を過剰発現させる実験を行った。過剰発現させた後、ipGTTを行い糖代謝に及ぼす影響を検討したが、糖代謝に及ぼす影響は確認できなかった。これまでのところWntシグナルと脂質代謝との関連も報告されており、肝臓におけるこれらの役割の検討も今後は必要と思われる。
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