本研究はdb遺伝子を倹約遺伝子としてとらえ、その意義を明らかにするためにdb/dbマウスにおける2型糖尿病発症・進展の分子機構を解明することを目的としている。db遺伝子が膵β細胞機能に及ぼす分子機構を明らかにするため、LCM (Laser Capture Microdissection)法とReal time RT-PCR法の組み合わせた新たな遺伝子解析システムを開発し、db/dbマウスの膵ラ氏島遺伝子発現を特異的に解析し、コントロール動物(非肥満m/m、db/mマウス)と比較検討した。すなわち8・12週齢の雄db/db、db/m、m/mマウスを用いて、体重、空腹時血糖、インスリン値を測定。LCM法にて膵ラ氏島コア領域を採取し、遺伝子の発現プロフィールを比較解析した。 その結果、db/dbの体重・空腹時血糖・インスリン値は他群より有意に高かった。LCM法で得られたインスリン遺伝子発現は、8週齢ではdb/+で他群より有意に増加した。8週齢db/dbでは、増殖・アポトーシス関連遺伝子発現が増加したが、12週齢では増殖促進遺伝子発現は低下し、アポトーシス促進遺伝子発現が増加していた。一方、アポトーシス抑制遺伝子であるbcl-2はdb/mにおいて高発現を認めた。10-16週齢間でdb/m、m/mに高脂肪食(HF)負荷を行ったところ、体重はHF群で有意に増加し、ipGTTにおいて血糖値には有意差を認めなかったが血中インスリン値はHF群で増加し、特にdb/m群でその増加は顕著であった。 以上より、db遺伝子ホモ接合体マウス(db/db)では肥満を伴う糖尿病発症をみるものの、db遺伝子ヘテロ接合体マウスでは糖尿病発症を抑制する代償性機構が存在することが分子レベル及びインスリン分泌反応で明らかになった。
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