NO合成酵素(NOS)システムは、神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)、内皮型(eNOS)の3種類のNOSアイソフォームで構成される。従来、生体内におけるNOSシステム由来NOの役割が、L-NAMEやL-NMMAなどの非選択的NOS阻害薬を用いて薬理学的に広く研究されてきた。しかし、これらのNOS阻害薬には、数多くの非特異的作用が報告されている。我々も、NOS阻害薬の長期投与による血管病変形成が、実はNOS阻害と無関係の機序で惹起されるという従来のNO研究の定説を覆す意外な事実を報告した。このように、生体内におけるNOSシステム由来NOの究極の役割は、未だ十分に解明されていない。この点を検討するために、我々は、NOSシステム完全欠損マウス(トリプルn/i/eNOS欠損マウス)を世界に先駆けて開発した(PNAS 2005)。 このマウスは幸運にも胎生致死ではなく誕生したが、出生率と生存率は野生型マウスに比して著明に低下していた。興味深いことに、このマウスの実に半数以上は、高度の冠動脈硬化を伴う自然発症の心筋梗塞で死亡していた。さらに、冠動脈外膜には肥満細胞の浸潤が認められ、冠スパスムの関与も示唆された。 加えて、トリプルNOS欠損マウスには、内臓肥満、高血圧、高脂血症、耐糖能異常などの最近話題のメタボリックシンドロームの病態や、心肥大、心拡張機能障害の病態も認められた。重要なことに、このマウスには、レニン・アンジオテンシン系の活性化や酸化ストレスの増大が認められ、これらがこのマウスの循環器疾患の機序に関与していると考えられた。 以上より、NOSシステム由来NOが多彩な循環器疾患の成因に中心的な役割を果たしていることが初めて示唆された。
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