多機能神経ペプチドPituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)は、中枢神経系以外に、精巣に比較的高濃度に存在しており、その特異的レセプターと共に発現が精子形成のステージにより周期的に変化する事から、生殖細胞の増殖、分化あるいは生存への関与が示唆されている。我々は、ヒト精巣におけるPACAP遺伝子発現調節機構を解明する目的で、ヒトPACAP遺伝子の精巣特異的プロモーター領域の同定と解析を行った。ヒトゲノムデータベースにおいて、すでに報告されたラット精巣特異的エクソンに対する相同配列を探索したところ、ヒトPACAP遺伝子の翻訳開始点から10.9kb上流に精巣特異的エクソン(hTE)を同定した。RT-PCRによりヒト精巣において、hTEを含むmRNAの発現を確認し、hTE上流領域の約1kbをクローニングした。この領域の様々な長さの欠失変異体を作成し、そのプロモーター活性を、非生殖細胞株(swiss-3T3とPc12)と生殖細胞株(F9とCHo)において、ルシフェラーゼアッセイにより比較評価した。その結果、約80bpの領域において、顕著な転写活性が精巣由来細胞であるF9においては観察されたが、非生殖系細胞株のSwiss-3T3とPC12では見られなかった。この領域のプローブとF9及びマウス初代精巣細胞の核抽出蛋白を用いてゲルシフトアッセイを行ったところ、複数の結台蛋白の存在が確認された。この領域にはC/EBPとAML-1a配列が存在するが、これら単独ではプロモーター活性を示すという報告がないことから、PACAP遺伝子の精巣特異的発現調節に未知の転写因子の関与が示唆された。
|