研究概要 |
脊椎動物においてインスリン受容体に類似したIGF1受容体が存在し、IGF情報伝達系は癌細胞の増殖、浸潤、転移、アポトーシス抑制等に関与する。また、インスリン/IGF情報伝達系は進化の上で海綿等の原始多細胞生物以降の無脊椎動物、脊椎動物に共通に存在し、無脊椎動物にて成長、加齢を制御している。本研究では、インスリン/IGF受容体下流のシグナルによる代謝及び増殖シグナルの差異の機序を解明するために、インスリン/IGF受容体が分岐していないヒドラ、ハエのインスリン様受容体と比較することによって検討した。【方法】TrkCの細胞外ドメインとIR, IGF1R, Hydra IR, Drosophila IRの細胞内ドメインのキメラ受容体を作製し、TrkCリガンドであるNT3刺激によりキメラ蛋白の自己リン酸化を検討した。次に、各種キメラ受容体を安定的に高発現させたHepG2クローンを作製し、これらの細胞にてmicroarrayを用いてこれらのキメラ受容体によって制御される遺伝子を網羅的に解析した。【結果】Western blottingにより、NT3刺激によるキメラ受容体の自己リン酸化を確認した。また、インスリンにより誘導されるEGR1遺伝子の発現量増加が、キメラ遺伝子発現細胞でNT3刺激でも起こることが認められた。Microarrayにより、0,90分、3,6,24時間の遺伝子の発現量変化を比較したところ、3時間刺激により最多の遺伝子の発現変動が見られた。そこで、3時間のNT3刺激にてキメラ受容体によって制御される遺伝子をMicroarrayにより網羅的に解析した.【考察】インスリン/IGF受容体を同一の細胞に発現させて遺伝子発現を比較することによって、インスリン/IGF受容体が2つの制御系に分岐した意義の解明が期待される。
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