B細胞腫瘍の微小環境への接着・ホーミング、あるいはその環境下での生存にDOCK2が及ぼす影響を検討することを目的とした実験を行った。使用した細胞は最終的にヒトB細胞細胞株であるRamosを用いた。RamosのDOCK2をsi RNAによりノックアウトし、それによって得られたDOCK2ノックアウト細胞の性質を検討した。まず、DOCK2ノックアウトRamos細胞は自然増殖において軽度の低下が見られた。このことを反映する細胞内情報伝達の影響としてとして、SDF-1による刺激下で、MAPキナーゼのERKのリン酸化の低下が確認された。さらに、ケモタキシスアッセイにより、SDF-1存在下でのRamos DOCK2ノックアウト細胞がケモカインへの反応性を低下することも確認された。Ramos細胞はCD27陽性の細胞であり、分化段階としては胚中心以降の成熟細胞である。これまで得られているノックアウトマウスの知見ではB細胞が胚中心のある二次リンパ組織へホーミングしないことから、Ramos細胞のような成熟Bリンパ球におけるDOCK2の役割は不明であった。今回の検討で、成熟Bリンパ球においてもDOCK2はその遊走に重要な役割を果たしていること、さらには一部生存にも関与している可能性が示唆された。一方、プライマリー腫瘍細胞を用いて行った検討では、腫瘍細胞における特異的なDOCK2発現過剰あるいは低下は存在しなかった。このことから、単純にDOCK2をターゲットとしての治療は応用不可能であることがわかった。
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