ヘリコバクターピロリは、胃潰瘍・胃癌、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、虚血性心疾患に関与する細菌である。我々は、ピロリ菌の毒素であるVacAが血小板上RPTPbetaを介して、持続的に血小板の活性化を惹起することがこれらの疾患の一因になっているのではないか、という仮説を立てた。目標は、18年度にVacAがRPTPbetaを介して血小板を活性化していることを、RPTPbeta欠損マウスで証明することであり、19年度にその信号伝達系を明らかにすることである。 18年度にVacAがRPTPbetaを介して血小板の活性化を惹起している証拠は得られず、RPTPbeta欠損マウスの使用が不可能となったため、他の血小板上のVacA受容体を検討した。VacAビースに結合してくる血小板蛋白をMS/MS解析したところ、蛋白Xという血小板顆粒内に存在する巨大分子が得られた。その一部の配列のGST融合蛋白を作成し、ビアコアでVacAとの結合を確認した。現在結合部位の同定を試みている。他の細胞でRPTPbetaの下流でリン酸化されるGit1は、血小板をVacA刺激してもリン酸化の増強が認められなかったが、インテグリンからのoutside-in signalでリン酸化された。Git1の血小板での発現自体今まで報告されておらず、この分子の血小板における動態についても検討したところ、Git1は血小板で常にbetaPIXというRacを活性化する蛋白と結合しており、リン酸化されると、インテグリンに結合した。これより、Git1は血小板においては、インテグリンの近傍にRac活性化分子を引き寄せ、細胞骨格の再編成に何らかの影響を及ぼしていると考えられた。インテグリンからのoutside-in signalは血栓の安定化に重要であり、Git1が血栓症の発症や生理的な止血に何らかの役割を担っている可能性が示唆された。
|