研究概要 |
FLT3の活性化変異には、膜直下領域変異であるITD変異体とキナーゼードメイン内に存在するactivation loop内の点突然変異体の2種があり、両者は特に急性骨髄性白血病症例に高頻度に認められる。これらの変異FLT3のシグナル伝達は、野生型と異なりSTAT3,STAT5の恒常的活性化を示す点にある。FLT3-ITDによるSTAT5の活性化については特に傍細胞膜領域のチロシン残基が重要であるとの報告がなされているが、実際にこれらの領域にSTAT5が変異FLT3特異的に結合するのかどうかについての証明はなされておらず、FLT3変異体特異的なSTAT5の活性化のメカニズムは未だに不明である。我々は今回、FLT3活性化変異体においてはSTAT5以外にSTAT3の恒常的活性化が認められることに着目し、またFLT3の細胞内ドメインにはSTAT3の結合するコンセンサスモチーフであるY-X-X-QがTyr567,573,769の3箇所に認められることより、これらのTyr残基のSTAT3の活性化への関与およびFLT3変異体の腫瘍性増殖における意義について検討を行った。Tyr567,573,769をすべてPheに置換した変異(3F)を有するFLT3のactivation loop領域変異体(Asp835Val)においては、STAT3のリン酸化が減弱し、STAT3の標的遺伝子であるpim-2の発現が低下しており、STAT3の活性化にこれらの3箇所のチロシン残基が重要であることが明らかとなった。また3F変異の導入によりFLT3Asp835Val発現Baf3細胞のサイトカイン非依存性増殖は抑制される傾向を認めた。これらのチロシン残基の内1箇所ずつをPheに置換した1F変異体においては特にTyr769Phe変異においてSTAT3の活性化の減弱が認められた。以上よりFLT3 Asp838Val変異によるSTAT3の活性化にはSTAT3結合部位であるY-X-X-Q領域が関与しており、中でも特にTyr769が重要である可能性が示唆された。
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