骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発症には、複数の遺伝子異常が関わっている。では、これらの造血器腫瘍を引き起こす遺伝子異常がなぜ起こるのだろうか?AML1点突然変異が続発性のMDSやAMLに高頻度であることから、放射線や化学療法剤がAML1変異を特に誘導するのではないかと考えた。また、AML1点突然変異を造血幹細胞に導入してマウスに移植すると、長期飼育中に造血異常を来たして死に至ることから、AML1点変異それ自体が「ゲノムの不安定性」を誘導し、セカンドヒットとなる異常を"引き起こす"のではないかと推測した。本研究計画では、これらの仮説の実証を試みた。 本年度は、発症の最初の段階である"どのように遺伝子異常を獲得するのか"の解明を行った。ヒト臍帯血から得られた造血幹細胞に化学療法剤エトポシドを作用させ、薬剤曝露を行わない細胞をコントロールとして、サイトカインの存在下で様々な期間培養した。エトポシド曝露3時間後にアポトーシスが最大となったが、7-14日後には両細胞は同等の生存率となった。3時間後および7-14日後に細胞を回収してDNAを抽出し、AML1遺伝子再構成をInverse PCR法により検出した。AML1遺伝子転座の好発部位であるexon5-6領域において、エトポシド投与3時間後に多数の遺伝子再構成バンドが得られ、AML1遺伝子と他の染色体との転座が確認できた。ところが、7-14日後では、コントロール細胞に多数の再構成バンドが検出され、エトポシド投与細胞ではバンドの数はむしろ減少していた。この予想外の結果に、他の遺伝子の検索も試み、転座の起こりやすいMLL遺伝子、起こりにくいCEBPA遺伝子について同様の解析を行った。MLL遺伝子はAML1遺伝子と同等の結果で、さらに多数の再構成バンドを検出した。一方CEBPA遺伝子にはこのような再構成バンドを認めず、遺伝子による転座の起こりやすさの違いが明らかになった。この結果を学会等で報告した。
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