骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発症には、複数の遺伝子異常が関わっており、中でもAML1点突然変異が続発性のMDSやAMLに高頻度であることから、放射線や化学療法剤がAML1変異を特に誘導するのではないか、またAML1点変異それ自体が「ゲノムの不安定性」を誘導し、セカンドヒットとなる異常を"引き起こす"のではないかと推測し、これらの仮説の実証を試みた。 本年度は、当初計画では放射線による変異獲得の解析を行う予定であったが、実験施設の自粛により放射線照射装置が使用不能であったため、発症の第二段階である"他の遺伝子異常の誘導"の解明を行った。マウス造血幹細胞にAML1点変異体を導入して移植する実験系では、長期観察期間中に高率に白血病の発症を認めたため、他の遺伝子異常を誘導していることが予測された。しかしこれはレトロウイルスによる遺伝子導入の際にセカンドヒットとなる遺伝子(Evi1など)に組み込まれるためであったことが判明した。これらのマウスではEvi1の発現が亢進しており、実際にAML1変異体とEvi1を同時に導入して移植すると、白血病の発生は早くなった。そこで特定の遺伝子導入部位を持たないヒト臍帯血由来造血幹細胞にAML1点変異を導入したところ、変異の種類により全く異なる増殖形態をとることが判明し、それぞれの変異を有する患者症例の臨床病態に一致していた。D171N変異体は、分化がブロックされて増殖も細胞死もしない状態となったため、他の遺伝子異常を誘導するのではなく、何らかの方法で獲得することが必要と考えられた。一方S291fsX300変異体は、CD34陽性細胞が増加していったことから、変異体自体増殖能を持っているか他の遺伝子異常を誘導することが考えられ、造血幹細胞に発現している遺伝子の相違を解析した。以上の結果を学会・論文等で報告した。
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