研究概要 |
骨髄微小環境は細胞外基質,骨髄ストローマ細胞,造骨細胞,破骨細胞などからなり,多発性骨髄腫の発生に関与するのみならず,骨髄腫細胞と細胞外基質やストローマ細胞などとの接触,あるいは,接触により誘導されるサイトカインによる増殖促進,抗アポトーシス作用により薬剤耐性の一因となっていることが徐々に明らかになりつつある。本研究は,これまでの成果をさらに発展させ,骨髄腫細胞とストローマ細胞の接着が腫瘍細胞増殖に与える作用を解明することにより,新たな治療法開発の基礎を構築することを目的とする。 本研究では,これまで示されていた骨髄腫細胞株のみならず,多発性骨髄腫患者由来骨髄腫細胞とストローマ細胞とを混合培養すると培養上清中のIL-6とVEGF濃度が上昇することが確認された。これまでに,健常人由来骨髄ストローマ細胞と比較し,骨髄腫患者由来ストローマ細胞と骨髄腫細胞を混合培養することによってTGF一β1産生が増加することが知られているが,骨髄腫細胞をTGF一β1存在下で培養すると,ストローマ細胞と共培養した時と同様に,培養上清中のIL-6とVEGFの濃度が上昇することが示された。TGF-β1阻害剤はIL-6転写因子であるSmad2/3,ならびにVEGF転写因子であるHIF-1αの活性化を阻害し,骨髄腫細胞とストローマ細胞の接着によるIL-6とVEGFの産生を抑制するのみならず,ストローマ細胞存在下の骨髄腫細胞増殖促進を阻害した。 本研究を継続し骨髄微小環境の腫瘍保護・増殖促進に関係する新しいメカニズムを明らかにすることにより,シグナル伝達因子をターゲットとした分子標的療法や,細胞表面抗原を対象とした抗体の開発など新しい有効な副作用の少ない治療法開発の基礎となることが期待される。
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