転写因子TELおよびTEL融合遺伝子が造血細胞の分化・増殖に与える影響についてマウスES細胞の系を用いて検討を行った。TEL遺伝子異常による小児白血病発症機構を理解するために、EGFPでN末を標識したTELを、Chicken β-actin (CAG) promoter下に発現するマウスES細胞を作製した。このES細胞が造血細胞へ分化する過程を詳細に検討し、TELの過剰発現が造血細胞の分化・増殖に与える影響について検討を行った。TELを高発現するマウスES細胞は、分化開始6、7日後に認められる造血幹細胞の集団であると思われるTie2^+/c-kit^<high>の細胞群が減少しているとともに、c-kitの発現が低く、より未分化なTie2^+/c-kit^<low>の細胞群が増加していた。マウスES細胞の血液分化系において、TELは細胞の未分化性を維持するとともに、血液前駆細胞を増加させる働きを有する可能性が示唆された。また腫瘍特異的融合遺伝子であるTEL-TRKCを発現するマウスES細胞を作製し、同様の解析を行った。TEL-TRKC融合遺伝子を発現するES細胞では、分化開始6、7日後に認められるTie2^+/c-kit^<high>の細胞群が減少していたと同時に、より未分化なTie2^+/c-kit^<low>の細胞群が増加していた。これは、TELを高発現するES細胞と同様な変化であるが、TEL-TRKCを発現するES細胞で、その変化はより顕著であった。この現象が引き起こされるメカニズムに関しては現在不明であり、今後の検討が必要であるが、TEL exon 5を含まないTEL-TREKCでは認められない現象であり、TEL exon 5の関与が重要であると考えられた。また、この細胞群がTEL-TRKC融合遺伝子を有する腫瘍の幹細胞となっている可能性が考えられ、この点に関しても腫瘍化モデルを含めた今後の検討が必要である。
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