本研究は分化型B細胞性腫瘍の発症の過程、あるいは臨床像における転写因子IRF-4及びIRF-8の役割を追求することを目的とした。IRF-4及びIRF-8が正常B細胞の分化・機能に重要であることは判明しているが、腫瘍化との関連については十分な検討がされていない。まずB細胞性リンパ腫におけるこれら因子の発現を確認し、組織型、治療成績との相関を検討した。最初に、生検時に凍結保存した腫瘍細胞から抽出したRNAを用いて、IRF-4、およびIRF-8の発現を半定量的RT-PCR法で確認した。検討症例はびまん性リンパ腫(DL)42例、濾胞性リンパ腫(FL)23例、計65例である。発現比率がIRF-4<IRF-8であった症例は、DLで13例(30.9%)、FLで16例(69.5%)であった。治療成績に関しては、IRF-4<IRF-8群の方が治療成績が良好である傾向が判明した。これは、それぞれの病型の発生段階の違いによりIRF4と8が別々に機能している可能性を示唆した。蛋白レベルでの確認のためパラフィン包埋された組織標本を用いた免疫染色を試みたが、ヒトIRF8に対する優れた抗体がなく断念せざるを得なかった。近年血液腫瘍の発生過程で、IRF4および8がbcl2を介して機能するとの報告が散見される。付随研究として、組織FISH法を用いたbcl2転座の同定をリンパ腫の組織標本上で行い、治療成績との関連を検討した。対象はDL35例であり、うち15例に大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植が行われた。その結果、生存例の71.4%免疫染色、FISHともbcl2異常が認められなかった一方で、死亡例の57.1%bcl2転座が認められた。bcl2転座はFLの多くに認められることが知られているが、DLとの関連については一致した見解がない。IRF4・8との関連を含めて今後の検討課題としたい。
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