研究概要 |
MiR-142は染色体17q22に局在するマイクロRNAで、造血細胞で高発現している。17q22に転座を有するびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者検体でmiR-142の発現を検討したところ、他の白血病・リンパ腫細胞株と比較して、miR-142-5p, miR-142-3pとも高度に過剰発現していた。MiR-142の発現は、17q22と相関があることが証明された。次に、種々のB細胞性リンパ腫細胞株について3q27転座の有無を検索したところ、Beva, HF4, Karpas231,RC-K8の4株で3q27転座が認められた。3q27転座陰性のPR1, MD901, MD903, Karpas422, OCI・Ly8を比較対照としてマイクロRNA miR-28の発現を検討したところ、Beva, PR1, HF4, Karpas422の4株で発現を認めた。3q27転座の有無とmiR-28の間には直接的な関係は認められなかった。以上より、悪性リンパ腫におけるマイクロRNAの発現は、転座の影響を受けるものと受けないものがあることが判明した。更に、転座による影響を受けるmiR-142については、その発現が造腫瘍性に関与するものであることが示唆された。 t(1;14)(p33;q32)転座を有するびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例では、14q32に存在するIgH遺伝子が1p33と相互転座を起こしていた。本症例では、切断点近傍に位置する既知の遺伝子で過剰発現しているものはなく、腫瘍化の責任遺伝子は未知の遺伝子であると考えられた。同部位近傍の遺伝子配列中には、エクソン-イントロン構造を持つ既存の遺伝子は存在しないが、未知のマイクロRNAが存在する可能性があり、これを検索した。同部位にはこれまでに報告のないnon-coding RNAが存在した。残念ながらマイクロRNA配列は含まれなかったが、これまでに報告のない全く新しい転座様式による腫瘍化機序が確認された。
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