易血栓性を特徴とする自己免疫疾患、抗リン脂質抗体症候群(APS)の血栓形成には複数の機序が複雑に絡み合っている。報告者は、APSの病原性抗体である抗β2-グリコプロテインI抗体や抗プロトロンビン抗体が単球や血管内皮細胞を活性化して、外因系凝固反応のイニシエータである組織因子などの向血栓物質を誘導することを示してきた。 報告者は昨年度までの研究で、モノクローナル抗リン脂質抗体がin vitroで単球に誘導する組織因子はインターフェロンαの前処置により著しく亢進することを示してきた。すなわち、抗リン脂質抗体の対応抗原であるβ2-グリコプロテインIもプロトロンビンも、細胞表面のホスファチジルセリンへ結合することによって抗リン脂質抗体の反応の場を形成する。lipid scrablase 1がインターフェロンαによって誘導され、ホスファチジルセリンの細胞表面密度が増加することによって抗リン脂質抗体のaccesibilityが増幅され、血栓傾向が高まると考えた。本年度はさらに抗プロトロンビンモノクローナル抗体を用いて、細胞活性化の機序を詳細に検討した。プロトロンビンの存在下で抗プロトロンビン抗体で処理した単球をプロテオームプロファイラーアレイを用いて活性化シグナルをスクリーニングしたところ、p38MAPKのみリン酸化がみられた。抗プロトロンビン抗体に誘導される単球の組織因子発現は、p38MAPK阻害薬であるSB203580によって抑制され、したがって抗プロトロンビン抗体による細胞活性化はp38MAPK経路に依存していることが明らかとなった。 これらの研究により、APSのあらたな治療標的としてlipis scramblase 1、p38MAPKおよびそれらの組み合わせが候補にあげられる。
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