脱リン酸化酵素であるSHP-1、SHP-2の基質タンパク質として同定されたSHPS-1は、細胞質内領域に抑制性のシグナル伝達に重要なITIMと呼ばれるアミノ酸配列を有することから、抑制性のシグナル伝達分子として機能することが考えられてきた。また、SHPS-1のリガンドとなるCD47がT細胞やB細胞などの免疫担当細胞に発現することから、CD47-SHPS-1シグナル系が免疫系において何らかの機能を有する事が想定されてきた。しかし生体内における詳細な機能は不明であった。我々はSHPS-1のITIM領域を欠損する遺伝子改変マウスを使用して解析を行い以下の結果を得た。[I]赤血球が脾臓内でマクロファージの貧食によって処理される過程において、赤血球上のCD47とマクロファージ上のSHPS-1が相互作用をすることで、マクロファージの貪食が抑制され、赤血球が脾臓内で過剰に処理される事を免れている。[II]SHPS-1は脾臓内の樹状細胞に強く発現を認める分子であり、SHPS-1のシグナルを遮断することで樹状細胞の機能が低下し、T細胞の活性化が障害される。また、SHPS-1は臓器特異的自己免疫疾患が発症する際に重要な機能を果たしている。[III]SHPS-1のシグナルはNKT細胞の活性化にも重要であり、SHPS-1のシグナルが遮断されることでNKT細胞に依存するIFNγの産生が障害され、NKT細胞によるガン細胞の転移抑制が障害される。これらの実験結果からCD47-SHPS-1シグナル系が、自己免疫疾患の発症やガンの免疫応答において重要なシグナル伝達系として機能している事が明らかになった。
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