本研究では、MRSA感染対策の重点病棟単位でのMRSA患者(感染症例と保菌例を含む)の全数調査(積極的監視培養:active surveillance culture : ASC)によりMRSAの伝播・感染状況と感染リスク因子を評価し、調査範囲をその関連診療科群の患者に拡大して、病院全体さらに近隣施設を含めた地域としてのMRSAの動きと感染リスク因子およびその対策法を検討した。調査対象は、(1)当院の集中治療部(ICU)-心臓血管外科-循環器内科病棟群、(2)当院のICU-消化器外科-消化器内科病棟群、(3)済生会吹田病院のICU-新生児ICU (NICU)-内科病棟間の3群であり、各月初めとその月末(翌月初め)のMRSA患者数の増減の比較によりその病棟および病棟間での接触感染予防策の効率(有効性)を評価した。(1)群(心臓血管外科)の入院患者に対するMRSA患者比率は、平成19年度前半の2〜4%から、以後、近隣病院からの緊急例を含む転入手術症例の著増に伴い4〜8%に増加したが、院内伝播・感染症発症例は月2例以下で維持し、感染予防策と周術期抗菌薬投与は概ね適切と考えられた。(2)群(消化器外科)でもMRSA患者比率が4〜6%、院内伝播・感染症発症例が月3例以下であり、両対策共に概ね良好と考えられた。H19年以後、(1)群と(3)群(NICUや小児、整形外科)を中心に市中獲得型MRSA株の拡大が目立ち、平成20年度に発生したNICUでのMRSA感染症アウトブレイクの確認、感染源の同定、および改善策の有効性の評価にこのパルスフィールド電気泳動を併用したASCが有効であった(日本環境感染症学会で報告)。平成18年度〜20年度の結果を総括して、『MRSA保菌状態からMRSA感染症を発症しやすい基礎病態をもつ患者群および感染症を誘発しやすい処置を受ける患者群を対象としたMRSAの積極監視培養は重要』と結論付けられる。
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