研究概要 |
A群レンサ球菌をddYマウスに筋注すると、感染の急性期から回復し、外見上は一旦健康を取り戻すにもかかわらず、約3週以降に敗血症や軟部組織壊死を伴って突然死亡し始める。研究代表者らはこの死を「遅延死delayed death」と命名し、劇症型感染症の動物モデルであると考えた。 平成19年度までの研究では主に以下のことが明らかとなった。 (1)菌血症を起こした菌は、莢膜を強く発現している。 (2)莢膜成分であるヒアルロン酸を合成するhasA遺伝子をノックアウトした菌は、遅延死を起こさない。 (3)LPSは遅延死を誘導する。莢膜成分であるヒアルロン酸は遅延死を誘導しない。 (4)遅延死マウスにおいて、血清LPSは増加していない。ヒアルロン酸も有意な増加は認めない。 (5)遅延死マウスの血清中サイトカインは、急性期に死亡したマウスと比較して、TNF-α, IFN-γ, IL-10, IL-12p70が有意に高値である。なお、高TNF-α血症は死亡直前に発生している。 (6)TNF-αは遅延死を誘導するが、溶連菌の増殖そのものには影響を及ぼさない。 平成20年度は次のことが明らかとなった。 (1)抗TNF-α抗体により死亡は阻止できない。 (2)A群レンサ球菌と同様に遅延死を起こすS.agalactiae4株について細菌学的検討を行ったが、スーパー抗原遺伝子(speA, speB, spec, speG, smez2)は保有していなかった。 以上より、遅延死の病態に最も深く関与しているのはサイトカインストームだといえそうである。急性死の場合と異なり、炎症性サイトカインのみならずIL-10に代表される抗炎症性サイトカインも増加しているのが特徴的で、これが免疫機能低下を引き起こし、莢膜発現菌の自由な増殖を許している可能性が示唆された。
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