ミトコンドリア機能異常症は細胞が生きるために必要なエネルギーを産生するミトコンドリアの機能障害により生ずる疾患群である。本疾患では種々の臨床症状を呈するが、特にエネルギー供給を常に必要とする中枢神経系や筋肉において症状が出現しやすい。ミトコンドリア機能異常症の中には進行性の神経症状を主症状とするLeigh脳症がある。このLeigh脳症は乳幼児期に発症し、中枢神経系の特異的な画像所見および高乳酸血症・高ピルビン酸血症を呈し、精神運動発達遅延、痙攣などの神経症状を伴う小児難病である。このLeigh脳症は種々の病因に基因している。これまでにはれピノビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)の異常や電子伝達系酵素異常やミトコンドリアDNA異常などが報告されている。 本研究で行りた日本人のLeigh脳症64例(男38例、女26例)の病因解明では32例(男21例、女11例)において病因を明らかにすることができた。この内訳はPDHC異常症5例、複合体I欠損症4例、複合体IV欠損症4例、ミトコンドリアDNA異常症であり19例(A8344G変異は1例、T8993C変異は2例、T8993G変異は14例、G13513A変異は2例)であり、日本人の半数のLeigh脳症患児では病因が明らかになった。その内訳では約60%がミトコンドリアDNA異常症であり、その中ではT8993G変異が最も多かった。PDHC異常症5例の遺伝子変異はC101F変異が1例、S152P変異が1例、L216F変異が1例、R263G変異が2例であった。現時点では、Leigh脳症に対する根本治療法は未だ確立されていないが、一部有効な治療がみられたのはジクロロ酢酸ナトリウムが12例で、ビタミンB1が6例で、ACTHが4例で有効であった。 今後の研究はこれまでに病因が不明であった半数のLeigh脳症の病因を明らかにし、有効であった治療を組み合わせたり、新たな治療法を確立することである。
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