研究概要 |
生後の栄養状態やホルモン環境の変化,特に長期間に及ぶ高脂肪食摂取が脳内の食欲調節機構に影響を与えることが報告されている。本研究では視床下部弓状核に発現するガラニン様ペプチド(GALP),ニューロペプチドY(NPY)及び,プロオピオメラノコルチン(POMC)に焦点をあて,発達過程での食餌の変化が及ぼす影響を明らかにするため,妊娠後期および授乳中の母親ラットへの高脂肪負荷が仔ラットの遺伝子発現に与える影響をIn situハイブリダイゼーション法で検討した。またレプチン投与の影響も検討した。母親ラットへの高脂肪負荷によって仔ラットのGALP mRNA発現は,離乳期に有意に増加していた。NPY と POMCは変化しなかった。また新生児期のレプチン投与でGALP,NPYとPOMC mRNA発現は変化しなかった。今回の検討で母ラットに対する長期間の高脂肪食負荷によって,仔ラットのGALP遺伝子は一過性ではあるが,離乳期の発現量に差が生じることが明らかになった。GALPシステムが変化は,胎児期、生後早期からの高脂肪食負荷がその他の脳内摂食調節系にも影響している可能性を示唆する。また高脂肪食がGALP,NPYおよびPOMC遺伝子の生後発達に及ぼす影響はそれぞれ独立していることが判明した。胎児期や新生児期は視床下部の摂食調節機構が完成する時期であり,環境の変化に対して感受性が高いと考えられている。特に胎児期の子宮内環境は最も早期の環境要因であり,低出生体重児が将来,生活習慣病に罹患する率が高いことが示唆されている。小児において肥満やメタボリックシンドロームが急速に増加している背景には,生後の過食は最も重要な因子であるが,胎児期あるいは新生児期の栄養状態が,摂食調節機構の発達に何らかの影響を与える可能性も考えられる。
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