全前脳症(Holoprosencephaly ; HPE)の亜型であるmiddle interhemispheric variant(別名syntelencephaly)症例の遺伝子解析を行ったところ、ゲノムコピー数解析用の高密度オリゴヌクレオチドアレイで6番染色体に遺伝子Xを含む約10Mb欠失を認めた。従来この領域に欠損をもつHPEの報告はないため、遺伝子XはHPEの新規責任遺伝子である可能性がある。この症例において、責任遺伝子として報告されているもののうち、少なくともSHH、ZIC2、PTCH1には全エクソンを解析しても変異は認められず、MLRへ法でSHH、ZIC2、PTCH1、SIX3、TGIFに欠損はみつからなかった。次にlong PCRで染色体の切断点を決定した。その結果、この症例では遺伝子Xのプロモーター領域及びエクソン1と2がhemizygousに欠損していることがわかった。このことからこの遺伝子がコードするタンパク質は正常人の半量しか発現しないことが示唆された。 一般にHPEはソニックヘッジホッグ(SHH)シグナルの減弱によって発症すると考えられている。そこでXの発現ベクターを構築した後、培養細胞に遺伝子導入し、転写因子Gliに依存して発現するルシフェラーゼ活性を測定することでSHHシグナル伝達への影響を解析したところ、Xは確かにSHHシグナル伝達を増強することが示された。従ってXが半量になることでSHHシグナル伝達が抑制される可能性が示唆された。 今後内因性のXの発現をsiRNAでノックダウンすることによるSHHシグナル伝達への影響、マウス胎児脳におけるXの発現を解析することでXとHPE発症の関連を更に解明したい。 (この症例は未発表であるため遺伝子名はXとした)
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