知的障害、認知障害の原因に、ニューロンが持つ樹状突起スパイン(以下、スパイン)の形態異常が挙げられる。本年度は、スパイン形態形成に関与しているアラキドン酸カスケード代謝経路ならびに代謝物の同定を計画した。1.小脳初代培養ニューロンでのアラキドン酸遊離実験:ニューロンのアラキドン酸カスケード代謝については不明な点が多く、アラキドン酸の遊離についてもほとんどわかってない。初代培養プルキンエ細胞には高度に細胞質型ホスホリパーゼA2(cPLA2)が発現していることより、小脳分散培養ニューロンを[^3H]アラキドン酸でラベルし、cPLA2を活性化させるカルシウムイオノフォアーA23187で刺激したところ、刺激後30分間にほぼ直線的にアラキドン酸が遊離した。外部刺激としてのグルタミン酸(L-Glu)の役割を調べたところ、50μMのL-Glu添加により、有意なアラキドン酸遊離を観察した。アラキドン酸遊離に関わるグルタミン酸受容体のサブタイプを調べたところ、AMPA型グルタミン酸受容体であることを確認した。プルキンエ細胞にはAMPA型グルタミン酸受容体が発現していることが知られている。2.アラキドン酸カスケード代謝阻害による代謝経路の同定:小脳初代培養ニューロンに、アラキドン酸カスケード代謝を阻害し、スパインの形態形成に与える影響を調べた。NDGAやAA-861によりリポキシゲナーゼを阻害したところ、スパイン頭部の膨化が見られ、形態計測によりスパイン頭部の最大径で約1.7倍、最小径で約1.8倍大きくなつていた。スパインネックの変化はみられなかった。一方、Indomethacin、Ibuprofenによりシクロオキシゲナーゼを阻害したがスパイン形態形成には影響がなかった。リポキシゲナーゼ阻害と各種ロイコトリエン代謝物の添加によるスパイン形態形成のレスキューを確認する実験が次年度になってしまったが、これらの結果は、小脳プルキンエ細胞をグルタミン酸処理することで、cPLA2が活性化されてアラキドン酸が遊離し、リポキシゲナーゼ経路により代謝されたロイコトリエンがスパイン形態形成に関与していることを示唆する。
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