申請者は原発性免疫不全症に対する造血幹細胞遺伝子治療の際に使用される臨床用レトロウイルスベクターの作製を行っている。 1)Gene silencing抵抗性レトロウイルスベクターGCDNsapの作製 申請者はすでにクリニカルベクターであるGCsap(MPSV)のLTRをPCMV LTRに変更したGCsap(PCMV)を作製している。今回、GCsap(PCMV)内に存在する2カ所の抑制性転写因子結合部位に変異を入れたGCDNsapを開発した。このベクターは未熟細胞におけるgene silencingに強い抵抗性を示し、造血幹細胞や胚性幹細胞においても長期にわたる導入遺伝子の発現維持を可能にしている。 2)臨床用ウイルス産生細胞株の樹立 上記GCDNsapに慢性肉芽腫症の原因遺伝子であるgp91phoxを挿入し、臨床用ベクターDN91phoxを作製した。このベクターを水庖性口内炎ウイルスのGタンパク質(VSV-G)を発現する293pgpに導入して、ウイルス産生細胞株を樹立した。これらウイルス産生細胞株より産生されたウイルスの力価は1x10^6を越え、また、感染細胞膜表面に導入したgp91phoxの発現を認めた。ただ、一般にVSV-Gはヒト造血幹細胞(CD34陽性細胞)に強い毒性を示すので、現在、これらウイルス上清を用いてgibbon ape leukemia virus(GaLV)由来のenvelopeを産生するパッケージング細胞株PG13に導入し、高力価のウイルス産生細胞株の樹立を試みている。 3)CD34陽性細胞への遺伝子導入 今後は、臍帯血あるいは患児由来のCD34陽性細胞に上記PG13/DNglphoxを用いてgp91phox遺伝子を導入する。これら遺伝子導入細胞をヒト造血細胞が長期間生存可能なNOD/SCIDマウスに移植し、in vivoにおける長期にわたるgp91phox遺伝子の発現を確認する。 4)HSV-TK遺伝子共発現ベクターの構築 フランスX-SCID遺伝子治療において発症した白血病有害事象の報告を受け、より安全性を高めるために、同一ベクターよりgp91phoxと自殺遺伝子であHSV-TK遺伝子を共発現するベクターを構築している。
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