研究概要 |
原発性免疫不全症の臨床例の検討において,我々は,これまで世界で1例しか報告されていない遺伝子変異の復帰を認めたX連鎖重症複合免疫不全症(XSCID)の乳児例を見出した(Bloodに投稿中)。XSCIDは,サイトカインレセプターであるγc鎖の異常に起因し,TやNK細胞の発生が障害されることが特徴である。しかし患児では,自己T/NK細胞が出現しているばかりか,0menn症候群様の症状も呈した。RAG遺伝子には異常を認めず,γc鎖を解析したところ発現は低下し,IL2RG遺伝子解析にて変異IVS1+5G>Aを認めた。患児では,スプライス異常によりpremature terminationとなるが,一部に正常mRNAも作られていることからT/NK細胞の発生が障害されなかったと考えられた。また,患児末梢血から不死化T細胞株を樹立したところ,γc鎖発現の正常なクローンが得られ,同クローンでは,第二変異により正常のスプライシングのみが生じていた。末梢血リンパ球亜群や皮膚浸潤リンパ球を解析したところ,主に皮膚浸潤リンパ球に第ニ変異が検出された。皮膚では,CD8^+T細胞がクローン性に増殖しており,本クローンが第二変異を有している可能性や皮疹と関連している可能性が示唆された。以上より,XSCIDの臨床スペクトラムは幅広く,また復帰変異は病態を修飾する重要な因子となる得ることが示された。一方,in vitroの実験として計画しているWiskott-Aldrich症候群をモデルとした復帰変異の誘導実験に関しては,WASP遺伝子と薬剤耐性遺伝子の融合遺伝子を発現するベクターを構築が終了し,感染性ウイルスを産生する段階にあり,基礎実験を継続している。
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