研究概要 |
腎不全に至る全ての小児腎疾患には、糸球体メサンギウム細胞(MC)増殖やメサンギウム細胞外基質(ECM)の構築異常、糸球体ポドサイト(Pod)の糸球体基底膜からの剥離(脱接着)、ボウマン嚢上皮細胞(B-Ep)増殖による半月体形成等の細胞生物学的特徴がある。腎炎の進行を左右する細胞動態を制御しているインテグリンシグナル伝達経路における活性酸素種(ROS)の役割を明らかにするために、培養細胞や腎炎モデルを用いて検討した。 1)ラット進行性腎炎モデル(片腎Thy-1腎炎とWKYマスギ腎炎)におけるNAD(P)Hオキシダーゼ活性の検討 片腎Thy-1腎炎とwKYマスギ腎炎の糸球体をDHA染色を用いてROS活性を検討したところ、糸球体NAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白(Nox2)の発現推移とパラレルであり、それぞれの腎炎におけるメサンギウムECMのリモデリング異常やPEC増殖による半月体形成などの細胞反応の発生時期とも一致していた。 2)インテグリン依存性のMC増殖、ECMリモデリング、POD接着能、半月体形成におけるNAD(P)Hオキシダーゼ由来ROSの役割の細胞生物学的検討 腎炎のECMリモデリング、半月体形成部位には、ILK,β1インテグリン、Nox2が共に強く発現していた。ROS除去剤にて治療すると、腎炎のそれぞれの病変は改善しILK,β1インテグリン、Nox2の発現も低下した。しかし、培養MC、培養PECを用いてILK,β1インテグリン、Nox2の局在を検討したところ、focal adhesion部位にはILK,β1インテグリンが共局在していたが、Nox2は異なる分布を示した。以上より、ILKやROSは腎炎の進行を左右する重要な分子であり、インテグリンシグナルにNAD(P)Hオキシダーゼにより産生されたROSが影響していることが示唆された。今後、インテグリンシグナルとROSシグナルの関係を培養細胞を用いて検討する予定である。
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