小児の伝染性紅斑の原因であるヒトパルボウイルスB19は5596塩基よりなる1本鎖DNAウイルスである。B19は骨髄中のCD36陽性赤血球系前駆細胞のみが感染許容細胞であるとされている。先天性溶血性貧血患者に感染すると一過性の無形成発作を引き起こし重度の貧血に至らしめる。その他、母体への感染による胎児水腫がよく知られている以外に、脳症を含む神経系疾患、肝臓疾患など多彩な病態との関連性が報告されている。これまで免疫能の正常な者では潜伏あるいは持続感染は成立しないと考えられてきたが、近年、B19ウイルスに感染後数年以上経過した者の関節滑膜や睾丸などよりB19 DNAが検出されたという報告がみられるようになった。潜伏あるいは持続感染が成立する条件(例えばB19の特定の変異株なら持続感染が可能となるのか等)を検討すること、また特定の変異と感染後の特異な病態(急性肝炎等)が関連しているのかを明らかにし、特定の変異株が通常株と比較してゲノム複製やmRNAの転写などがどのように異なるかを分析することを目的とした。まず、感染状況を確認するため1995年から2005年までの札幌医科大学小児科における保存血清に関してスクリーニングを行った。この期間に、血液悪性腫瘍患者の検体は約3500、一般血清は約6500保管してあった。PCR法により陽性検体を同定した。疾患あるいは感染期間の長短により特徴的な変異がないかを塩基配列分析により確認した。スクリーニング検査により30検体の陽性検体が得られB19 DNAの遺伝子配列を分析した。疾患よりも年代の変化により、配列の変異がみられた。潜伏感染例では1969塩基目がThymidineがAdenineに点変異していることが確認された。この変異は現在まで報告のない特殊なものであった。現在、この変異をプラスミド上に導入し、各mRNAの転写物の相対量を比較する段階となっている。
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