今年度はインヒビター存在下での第VIII因子活性(FVIII:C)の発現状況を解析する目的で、微量のFVIII:Cを検出することが可能な凝固波形解析装置(MDAII)を用いた検討を行った。抗第VIII因子同種抗体(AlloAb)は7種、モノクローナル抗体(MoAb)は4種を使用した。イムノブロットによるエピトープ解析ではAlloAbのうち3種が第VIII因子のA2ドメインを、4種がC2ドメインを認識するインヒビターであった。一方、MoAbはA1とA2ドメインを認識する抗体が各1種、C2ドメインを認識する抗体が2種であった。AlloAbおよびMoAbをIgGに精製した後、第VIII因子欠乏血漿で希釈し、10 Bethesda単位(BU)/mlのインヒビターを有する第VIII因子欠乏血漿を作製した。それらを正常血漿と等量混合後1、10、30、60、120分の検体の凝固波形解析とともにFVIII:Cおよび最大凝固加速度(|Min2|)を計測した。 120分反応後、A2ドメインを認識する2種のAlloAbでそれぞれ0.6、1.1U/dlのFVIII:Cを検出し、3種でそれぞれ0.128、0.141、0.152の|Min2|を認めた。同様にc2ドメインを認識する2種のAlloAbで0.4、0.5u/dlのFVIII:Gを検出したが、|Min2|はいずれの抗体も検出されなかった。一方、A1とA2ドメインを認識するMoAbのFVIII:Cはそれぞれ0.9、5.7U/dlであり、|Min2|もそれぞれ0.146、0.367であった。C2ドメインを認識するMoAb2種のFVIII:Cはそれぞれ<0.2と0.2U/dlであり、|Min2|はそれぞれ0.117と0.102であった。 終濃度5BU/mlのインヒビター存在下では通常、正常血漿中のFVIII:Cは完全に失活するはずであるが、実際には120分後でも微量のFVIII:Cおよび|Min2|が検出された。とくにA2ドメインを認識する抗体では凝固波形の改善も良好でFVIII:Cもより残存する傾向を示した。これらの知見は高力価インヒビター存在下での第VIII因子活性の発現の可能性を示唆するものである。
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