インヒビター存在下での第VIII因子活性(FVIII:C)の発現状況を解析する目的で、凝固波形解析装置(MDAII)およびトロンビン生成測定システムを用いた検討を行った。抗第VIII因子同種抗体(AlloAb)は7種、モノクローナル抗体(MoAb)は4種を使用した。AlloAbのうち3種が第VIII因子のA2ドメインを、4種がC2ドメインを認識するインヒビターであった。一方、MoAbはA1とA2ドメインを認識する抗体が各1種、C2ドメインを認識する抗体が2種であった。AlloAbおよびMoAbをIgGに精製した後、第VIII因子欠乏血漿で希釈し、10および20BU/mlのインヒビターを有する第VIII因子欠乏血漿を作製した。それらを正常血漿と等量混合後の検体を経時的に凝固波形解析とともにFVIII;Cおよび最大凝固加速度(|Min2|)を計測した。さらに、トロンビン生成能を評価するパラメーターとしてPeakHeight(Nm)とEndogenous Thrombin potential ETP(Nm×min)を測定した。その結果、終濃度5BU/mlを超えるインヒビター存在下では通常、正常血漿中のFVIII:Cは完全に失活するはずであるが、実際には120分後でも微量のFVIII:Cおよび|Min2|が検出された。とくにA2ドメインを認識する抗体では凝固波形の改善も良好でFVIII:Cもより残存する傾向を示した。同様に、20BU/mlの高力価でもほとんどのインヒビター存在下で微量のトロンビン生成が確認された。とくにA2ドメインを認識するAlloAb存在下では、C2ドメインを認識する抗体の場合よりトロンビン生成が上回る傾向を示した。 これらの知見は高力価インヒビター存在下でのFVIII : Cの発現の可能性を示唆するものであり、インヒビター存在下の第VIII因子定期投与で経験する予防的止血効果を裏付けるものと思われた。
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