研究概要 |
リンパ球脈絡髄膜炎(lymphocytic choriomeningitis virus, LCM)ウイルスは,アレナウイルス科アレナウイルス属に分類されるウイルスで,宿主はマウスなどのげっ歯類である.ヒトが感染すると,無菌性髄膜炎を引き起すことが知られ,さらに,妊婦がこのウイルスに感染すると胎児に感染が広がり,先天性感染症の原因ともなる.つまり,LCMウイルス感染症は人獣共通感染症のひとつである. 抗LCMウイルス核蛋白抗体は,ラッサウイルス(LCMウイルスと同様にアレナウイルス科アレナウイルス属に分類される)核蛋白に交叉反応陽性を示し,逆にラッサウイルス抗体もLCMウイルス核蛋白に交叉反応陽性を呈することが明らかにされた.組換えバキュロウイルスを用いてLCMウイルスの組換え核蛋白を発現・精製し,精製組換え核蛋白を抗原としたLCMウイルス抗体を検出するシステム(IgG-ELISA)を開発した.このIgG-ELISAでは,ラッサウイルス感染サルの回復期血清中にLCMウイルスの核蛋白に結合する特異的抗体が検出され,非感染サル血清中にはそれが検出されないことを明らかにされた.つまり,LCMウイルス組換え核蛋白を抗原としたIgG-ELISAでは,LCMウイルス感染症患者で誘導される抗体を特異的に検出することが可能であることが明らかにされた. 本IgG-ELISAを用いて,日本人960人の血清中のLCMウイルス核蛋白に結合する抗体保有率を検討した.その結果,960血清中14血清(1.5%)がIgG-ELISA陽性を呈した.このIgG-ELISA陽性血清14検体について,LCMウイルス(Armstrong株)感染HeLa細胞を抗原とした間接蛍光抗体法により,LCMウイルス抗体が検出できるか否かを検討したところ,これら14検体は間接蛍光抗体法で陰性を呈した. 今回検討した960人の日本人血清中にはLCMウイルス抗体は検出されなかったことから,日本人の多くはLCMウイルスに感染していないことが明らかにされた.欧米ではLCMウイルスが無菌性髄膜炎や先天性LCMウイルス感染症の原因とされているが,我が国ではLCMウイルス感染症は極めて少ないのではないかと推測される.
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