昨年度までに完成した磁場調整プログラムおよびmulti-voxel spectroscopic imaging法を用い、マウス新生仔低酸素脳症モデルにおいて、神経細胞に特異的に存在するNAAを測定することにより、脳内の生化学的変化をより詳細に検討した。 昨年度、持続的低酸素よりも間歌的低酸素においてNAAの著明な低下が生じることを報告したが、間歌的低酸素群においても、従来のMRI T2強調画像や、拡散強調画像では明らかな脳虚血性病変は描出できず、また病理組織学的検査においても神経細胞数の減少は確認できなかった。またこれらの動物を正常酸素濃度下でさらに4週間飼育したところ、NAAの濃度は正常に復すことが判明し、multi-voxel spectroscopic imaging法で確認されたNAAの低下は、可逆的な神経細胞の障害を示していると考えられた。すなわちNAAの測定は、回復可能な程度の周産期低酸素性神経細胞障害を描出できることが明らかになった。したがって、実際の周産期医療においても、新生児仮死の症例が従来のMRIで明らかな虚血性病変を指摘できなかったとしても、multi-voxel spectroscopic imaging法を用いて脳内NAAを測定し、治療継続が必要な症例を鑑別することで、不可逆的な脳障害、脳性麻痺の発症を予防できる可能性があることが示唆された。
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