マウスの神経管閉鎖異常(NTD)のひとつである外脳症に焦点を当て、NTDの遺伝素因を持つPdnマウスを用いて、葉酸(FA)投与の有無や遺伝子型の違いが発症にどのように影響を及ぼすのか、またFAがそれら神経管閉鎖時期の胚の遺伝子発現にどのように関与するのか検討した。ヘテロ型であるPdn/+マウスどうしを交配し、妊娠7日の母体にそれぞれFA、カビ毒の一種でNTDを誘引するOchratoxin A (OTA)、FA+OTAを腹腔投与した。無処理群を対照として用いた。 まず胎生18日の胎仔を摘出し、NTD発症等を観察した。Pdn/Pdnの無処理群では13.2%のNTD発症率であったのに対し、OTAを曝露した群では51.6%と有意に増加したが、あらかじめFA処理した群では20.8%まで発症率が低下した。また、FAのみでは無処理群のPdn/PdnにおけるNTD発症率と差が無いことから、FAはGli3発現抑制によるNTDを防御できないことが示唆された。 次に、妊娠8.5日の各投与群のマウス母体血清中のFA濃度を化学発光酵素免疫測定法により測定した。OTA曝露群では血中葉酸濃度が有意に減少したが、FA前処理しておくと血中葉酸濃度に改善が見られた。OTA処理により神経管閉鎖期に母獣の血中葉酸濃度が減少することが、NTD発症頻度の増加要因の1つと考えられた。 次に胎生9日胚の頭部における、葉酸代謝関連のFolbp1、Mthfrおよび脳形態形成関連のFgf8、Emx2遺伝子の発現を、リアルタイムPCR法で測定した。Folbp1とMthfrの発現量は、遺伝子型間やOTA、 FA投与による有意な差が認められなかった。Fgf8、Emx2ではOTA曝露による発現量の変化が認められた。今後、Fgf8やEmx2の異所性発現を、ホールマウントin situハイブリダイゼーション法を用いて詳細に検討していく予定である。
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