研究概要 |
近年,子宮内での発生や分化,成長の過程での遺伝子の発現には多彩な分子が関わり,誤ったエピジェネティックな情報はさまざまな疾病をもたらすことが明らかになりつつある.すなわち子宮内での劣悪な環境によってエピジェネティックな修飾が起こり,それが成長後の成人病罹患のリスクを高めることが「胎児プログラミング」の本態と推測される.そこで本研究は,子宮内環境による胎児組織のDNAメチル化とそれによって生じる遺伝子発現の変化が将来の疾病罹患のリスクに関係するという仮説を検証するために,妊娠中の低栄養ストレスによるマウス新生仔組織のゲノムDNAメチル化の変化を検討した. マウスを全妊娠期間中,9%caseinのタンパク質制限による飼育群(R群)とコントロール群(C群)に分けて飼育した.出生直後の新生仔より肝組織を摘出し,組織をアガロースビーズ内に封入した後に,bisulfite法によりゲノムDNAのシトシンのメチル化の有無を調べた.標的遺伝子としてOct-4およびsphingosine kinase-la(SPHK1)を選び,そのプロモーター領域をPCRで増幅しシークエンスした.R群(n=14)とC群(n=20)を解析の対象とした. 結果としてシトシンのメチル化比率に関しては,Oct-4およびSphk-1において有意差を認めなかった.メチル化部位に着目すると,Oct-4では両者に差が認められなかったが,Sphk-1ではメチル化部位が異なるパターンを認めた.CpAやCpTなどのnon-CpGのシトシンにメチル化が付加されており,それがパターンの違いの原因の可能性がある.DOHaD理論の病態と結びつけるために,DNA microarrayにて遺伝子発現の変化を網羅的に調べ,ターゲットとなる遺伝子をさらに絞り込む作業を現在行っているところである.
|