研究概要 |
PI3Kはその基質特異性からクラスI、II、IIIに分類される。クラスI PI3K(IA、IB)は細胞内のPI(3,4,5)P_3産生の主要経路であり、触媒サブユニット(p100α、p100β、p100γ、p100δ)と調節サブユニット(p85α、p85β、p55α、p55γ、p50α)で構成されている。これらの各触媒サブユニットと調節サブユニット間の結合の優先的な組み合わせや、それに起因する酵素活性の相違に関しては未だ不明な点が多い。そこで今回の研究計画において、我々は角化細胞特異的PTEN欠損マウスと各々の触媒サブユニット欠損マウスを交配し、PI3K-PTENダブルノックアウトマウスを作成する。PTEN単独欠損マウスが表皮の過角化や体毛の異常などを示すのに対し、角化細胞で重要な役割を果たしている触媒サブユニットを欠損させたマウスでは、その表現系が野生型と類似しているものと推定される。さらに化学発癌処理を加えて、腫瘍の発生頻度をPTEN単独欠損マウスのそれと比較することにより、特定のPI3K触媒サブユニットの欠損により表皮の発癌が抑制されることが期待される。 そこで、PTEN欠損マウスにおけるとPI3Kの生理学的な役割を解析するため、昨年度中にK5 Cre-PTEN flox/floxマウスと、各々の触媒サブユニット(p110α、p110Oβ、p110δ)遺伝子にloxP配列を導入したマウスを交配し、角化細胞特異的にPTENとPI3K触媒サブユニットがいずれもホモ欠損になった遺伝子改変マウスを作成した。これらの遺伝子改変マウスにおける腫瘍発生機序を解析することにより、扁平上皮癌の分子病態の解明と新たな分子標的治療を模索する上で貴重な知見が得られるものと確信している。
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