研究概要 |
PI3Kはその基質特異性からクラスI、II、IIIに分類される。クラスI PI3K (IA、IB)は細胞内のPI(3,4,5)P3産生の主要経路であり、触媒サブユニット(p100α、p100β、p100y、p100δ)と調節サブユニット(p85α、p85β、p55α、p55y、p50α)で構成されている。これらの各触媒サブユニットと調節サブユニット間の結合の優先的な組み合わせや、それに起因する酵素活性の相違、増殖、分化、生存、細胞運動なでへの関与、などに関しては未だ不明な点が多い。 そこで角化細胞におけるPI3Kの発癌過程における役割を解析するため、18年度に作成したPI3Kのp85α、p110(α、δ、y)各サブユニット欠損マウスと表皮細胞特異的PTEN欠損マウスのダブルノックアウトマウスを用いて、本年度はPTEN欠損マウスの表現形の回復と発癌抑制に関して検討した。 その結果、(1)角化細胞特異的PTENホモ欠損マウスは、p110αヘテロ欠損によって、表現形と早期致死は改善されたが、papillomaの自然発症は改善されなかった、(2)角化細胞特異的PTENヘテロ欠損マウスは、p110αヘテロ、p110yホモ欠損によって有棘細胞癌は自然発症しなくなった、などのPI3Kサブユニット欠損による有棘細胞癌発癌の抑制効果は、細胞内のPTENの量依存性に発揮されることを示唆する所見が得られた。 上記の研究成果は、角化細胞の発癌に関与しているPI3Kサブユニットを特定したのみならず、腫瘍関連PI3Kサブユニットの活性を抑制すると発癌が阻止される可能性があることを示すものであり、標的分子の選択的遮断を基盤とする新しい治療法を模索する端緒となった。今後の研究の発展により、皮膚扁平上皮癌の化学予防法を創生する上での画期的な成果が得られるものと期待される。
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