ヒトK1遺伝子3‘下流7kbpの部位に約60bpの「カルシウム応答配列」が存在することがわかっていた。ケラチノサイト培養系において培地のカルシウム濃度を0.05mMから0.12mMに上げるカルシウム・スイッチにより、ケラチノサイトが分化し、K1遺伝子が発現してくるが、この配列を含まないK1遺伝子クローンは、本来発現しないはずの0.05mMの未分化ケラチノサイトでも発現してしまい、カルシウム・スイッチによる細胞分化に応答しなくなる。従って、この部位にK1遺伝子の分化ケラチノサイト特異的発現を制御する情報が存在すると考えられた。本年度は、このカルシウム応答配列を含む、あるいは含まない様々の長さのヒト・ケラチン1genomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスを作製し、その発現パターンをヒト・ケラチン1特異的モノクローナル抗体を用いて免疫組織学的に解析した。その結果、カルシウム応答配列を含むgenomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスでは、カルシウム応答配列を含まないgenomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスに比べて、ヒト・ケラチン1の発現がより有棘層に限局していた。すなわち、ヒトK1遺伝子3‘下流7kbpの部位に存在する「カルシウム応答配列」は、遺伝子上流のプロモーター領域と共同してケラチン1の発現を精度高く制御するのに重要な役割を担っているものと考えられた。
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