ヒトK1遺伝子3'下流7kbpの部位に約60bpの「カルシウム応答配列」が存在することがわかっており、データベース検索の結果、この配列の中には転写因子であるCOUP-TFとAP-1の認識配列が認められたが、その機能的意義は明らかとなっていなかった。今回、このCaREはお互いに隣接するAP-1とオーファン・ステロイド・レセプターであるCOUP-TFの認識配列から構成されていることを見出し、AP-1とCOUP-TFがカルシウム・スイッチにおいて果たす役割を解析した。AP-1を構成するc-Junとc-Fosをそれぞれ角化細胞に強発現させ、CaREの転写活性の変化をCATアッセイにより定量化したところ、c-FosはCaREに対して転写活性を増加させ、逆にc-Junは抑制的に働くことがわかった。角化細胞のカルシウムスイッチにともなうAP-1の発現変化を調べると、カルシウムスイッチ前の未分化角化細胞ではc-Jun/c-Junのホモダイマーの形で存在し、カルシウムスイッチ後の分化角化細胞では、c-Fos/c-Junのヘテロダイマーとして存在していた。このことは、角化細胞内でc-Fosがカルシウムスイッチの推進役として働いていることを強く示唆するものである。さらに、このカルシウム応答配列を含む、あるいは含まない様々の長さのヒト・ケラチン1 genomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスを作製し、その発現パターンをヒト・ケラチン1特異的モノクローナル抗体を用いて免疫組織学的に解析した。その結果、カルシウム応答配列を含むgenomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスでは、カルシウム応答配列を含まないgenomic DNAを遺伝子導入したトランスジェニックマウスに比べて、ヒト・ケラチン1の発現がより有棘層に限局していた。すなわち、ヒトK1遺伝子3'下流7kbpの部位に存在する「カルシウム応答配列」は、遺伝子上流のプロモーター領域と共同してケラチン1の発現を精度高く制御するのに重要な役割を担っているものと考えられた。
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