研究概要 |
蛋白質翻訳後修飾酵素の一つであるPeptidylargnine deiminase(PAD)は蛋白質のアルギニン残基をシトルリン残基に変換酵素である。ヒト、など哺乳動物には5つの異なるPAD遺伝子が存在し、それぞれType I(PAD1),II(PAD2),III(PAD3),IV(PAD4),VI(PAD6)と呼ばれている。これらのうちPAD1,2,3は表皮組織に存在しているが、その細胞局在性は異なりそれぞれが異なる生理機能を果たしていることが推定されている。特にPAD1は表皮生細胞から角質化細胞まで広く分布し、表皮の角質化に関わるケラチンK1,K10の機能改変に機能していることが明らかにされた。また、最近PAD1の発現低下が表皮の遺伝的疾患に関わっていることも明らかとなり、ヒトPAD1遺伝子の発現制御機構の解明が上述の疾患の発症機序解明とその治療法の開発にとって大変重要であることが認識されてきた。昨年度のヒトPAD3遺伝子の発現制御機構に関する研究に続き、本年度は、ヒトPAD1遺伝子の発現制御機構を明らかにするためその基本転写領域、同領域のcis領域の同定、基本転写因子の同定とそれらによる制御機構を世界に先駆けて解明した。具体的には、ヒトPAD1遺伝子は組織特異的発現に関わるTATA-boxを有し、その基本転写調節領域は転写開始点から上流159bpであり、その領域内において4箇所のMZF1転写因子結合領域と1箇所のSp1/Sp3転写因子結合領域が存在する。これらの領域にそれぞれMZF1とSp1転写因子が結合することでその発現が誘導されること、Sp1のカウンターパートであるSp3の結合がその発現を抑制していることを証明した。MZF1転写因子が表皮細胞の分化に関わっているとの報告はなく、今後の研究の展開が大変注目される。
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