研究概要 |
Peptidylarginine deiminase(PAD)は、蛋白質のArg残基をCit残基に変換する酵素である。ヒト表皮・毛嚢にはPAD1,2,3が発現し、組織の分化に重要な分子である。本研究はこれらPADの基本転写調節機構の解明を目的とした。平成18年度はヒトPAD遺伝子の基本発現調節機構を研究した。PAD3遺伝子は転写開始点から約20bp上流にTATA-boxを有し、CCAAT-boxとGC-boxがcis領域であることが判った。またこれらの領域にTDFII,NF-Y,Sp1/Sp3が結合することをゲルシフト、スーパゲルシフトアッセイで明らかにした。これらの転写因子がcis領域に結合していることやどのような転写調節を担っているかを明らかにするため、クロマチン免疫沈降アッセイを行った。その結果、これらの転写因子抗体はそれぞれPAD3遺伝子のcis領域を沈降させること、併せてPAD3遺伝子の基本的な転写はSp1の結合で正のSp3の結合で負に調節されていることを見出した。さらに、それぞれの因子の生合成をsiRNAの培養細胞への導入で阻害した結果、PAD3遺伝子の発現にはNF-Yのcis領域への結合が重要であることやSp1とSp3の量比でもって基本的な発現調節がなされていることを証明した。平成19年度はヒトPAD1遺伝子の発現制御機構を明らかにするため、PAD3遺伝子と同様な研究手法を用い、その基本転写領域,同領域のcis領域の同定、基本転写因子の同定とそれらによる制御機構を解明した。具体的には、ヒトPAD1遺伝子は組織特異的発現に関わるTATA-boxを有し、その基本転写調節領域は転写開始点から上流159bpであり、その領域内において4箇所のMZFI転写因子結合領域と1箇所のSp1/Sp3転写因子結合領域が存在する。これらの領域にそれぞれMZF1とSp1転写因子が結合することでその発現が誘導されること、Sp1のカウンターパートであるSp3の結合がその発現を抑制していることを証明した。すでに我々はPAD2遺伝子の基本転写調節機構を明らかにしており、今後はPAD1,2,3遺伝子相互間における詳細な発現調節機構を解明する予定である。
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