基礎・臨床研究の各々で下記の研究結果を挙げている。 1)神経前駆細胞への気分安定薬の直接作用 成体ラットの海馬歯状回から神経幹細胞/神経前駆細胞(AHP)を単離し、その培養系を確立することに成功した。そして、AHPの増殖にグルココルチコイドとリチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリジンが及ぼす影響について今回検討した。その結果、AHPに各気分安定薬を単独で投与しても増殖能はいずれにおいても変化しなかった。一方、グルココルチコイド受容体のアゴニストであるデキサメサゾンは有意にAHPの増殖を抑制し、その増殖抑制効果をリチウムとバルプロ酸は阻害した。一方、カルバマゼピンとラモトリジンは阻害しなかった。従って、リチウムとバルプロ酸は正常なAHPの増殖には影響しないが、ストレス存在下で抑制された増殖能を回復させ、一方、カルバマゼピンとラモトリジンはAHPの増殖に直接的な影響を及ぼさないと考えられた。 2)海馬体積と視床下部-下垂体-副腎(HPA)系機能との関連 気分障害患者群と健常対照群に対してMRIを用いた海馬体積測定とデキサメサゾン(DEX)/CRH抑制試験を行い、海馬体積と血漿コルチゾール/ACTH濃度との関連を検討した。その結果、気分障害患者群では健常対照群と比較して両側海馬体積は有意に減少しており、女性患者群においてより顕著な低下を認めた。非抑制を示した(測定した中で一度でも血漿コルチゾール値が5μg/dl以上を示した群)のは患者群50%(10/20)に対して健常群12%(3/25)であった。患者群における海馬体積減少は、血漿コルチゾール非抑制群でより顕著に認められた。また患者群では右海馬体積と血漿コルチゾール/ACTH濃度の間に負の相関関係が認められた。以上より、気分障害においてHPA系機能亢進は海馬体積減少と関連している可能性が示された。
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